第62号「知覧特攻平和記念会館訪問」

昔あったづもな通信62号
小澤俊夫

知覧特攻平和記念会館訪問
 昔ばなし大学の「昔ばなしの言葉シンポジウム」第3回を鹿児島県国分で開いた後、約20年ぶりにこの記念会館を訪問した。噂には聞いていたのだが、この記念会館の意味づけがすっかり変わっていることに衝撃を受けた。若き命を国に捧げたことの賛美に終始していたのである。そこには、あの特攻攻撃が如何に無謀なものであったか、いかに現実離れしたものであったか、あの計画の責任は誰にあったのか、という問題はまったく隠されてしまっていたのである。しかも若き命たちは、死ぬ日を前にして、苦しみ、悲しみ、酒を飲んで暴れた者もいたそうだが、そんなことにはまったく触れない展示ばかりだった。
 若くして死んでいった者たちは、またしても国家の都合で、その死を礼賛されることになってしまっていた。
 第二次大戦末期、アメリカ軍が沖縄に上陸して、日本は追いつめられた。そのとき、日本各地、及び韓国、中国に派遣されていた陸軍航空隊の若者たちが知覧に集められて、沖縄を攻撃するアメリカ艦船への体当たり攻撃に出撃したのだった。17歳から23歳くらいまでの若者たちが、体当たりに出撃して死んだ。その数1000名をはるかに越えたとのことだった。
 親や家族に向けて遺した遺書がたくさん並べられてあった。みんな立派な言葉で別れを告げてあった。涙なしには読めない。ひとりひとりの写真もあった。軍服もあった。別れの食事の風景。出撃の風景。そして、アメリカ軍が撮影した、撃墜される瞬間の映像も流されていた。特攻隊が乗って行ったといわれる陸軍の戦闘機も現物が展示されていた。いくつかの軍用旅館の女将さんたちが、当時の様子を話す映像もあった。
 だが、ぼくが約20年前に訪れた時には、旅館の女将さんだったというおばあさんが、若者たちが死を目前にして苦しんだ様子を赤裸々に語ってくれた。ある者は泣きわめき、ある者は父や母の名を叫び、ある者は酒に逃げて暴れていた、と話してくれた。「お国のために命を捧げますなんていうのは、表面だけで、ほんとはそんなもんじゃなかった」という言葉に、ぼくはその時衝撃を受けた。そして「それが本当だろう」と思った。
 戦争中にはよく言われたものだ、「兵隊は天皇陛下万歳と叫んで息を引き取った」と。だが、戦地から生きて帰ってきた男たちからは、「みんな、母ちゃんとか、女房や子どもの名前を呼んで死んでいった」と聞かされた。それが本当だと思った。
 今回見た記念会館の展示は、すべて、「天皇陛下万歳!」を示す展示だったのだ。出撃直前の朝飯の写真があったが、みんなにこやかな顔で、まるでこれから遠足にでも行くような表情だった。そんなはずはないではないか。
 特攻隊が乗っていたという戦闘機の実物が展示されていた。それは古臭いがれっきとした戦闘機だった。だが、指宿在住の元社会科教師だった方の説明では、「戦闘機は全くおんぼろで、練習機まで特攻機として使われた。水上飛行機まで特攻機として使われたが、時速200キロしか出ないので、海上で待ち伏せしている時速500キロのグラマン戦闘機に次々撃ち落とされた」ということだった。若者は犬死させられたのだ。この点でも真実は伝えられていないのである。
 記念会館のどこにも、あの戦争はそもそも無謀な戦争だったことは書いていない。いわんや、おんぼろ飛行機に乗って敵艦に突っ込むという自爆戦術の愚かさは何処にも書いていない。あの愚かな、無謀な自爆戦術を誰が考案したのか、その追及もない。練習機や水上飛行機でグラマン戦闘機に対抗できると、誰が考えたのかの調査もない。まるで、あの特攻攻撃が国民の自発的総意として生まれたかのような展示である。
 知覧特攻平和祈念会館は、今や、「こんなに多くの若者が、お国のために尊い命を捧げたんだよ」ということだけを宣伝する場所になってしまった。「だからあんたたちもお国のために命を捧げなさいよ」と人々に訴える場所になってしまった。靖国神社と同じ、忠君愛国の宣伝の場となってしまったのである。
 知覧には年間50万、60万人の観光客が訪れるということだった。生徒、学生も訪れるだろう。訪問者は、お国のために命を捧げることが感動的なことなのだと、学ぶだろう。
 一方では、安全保障諸法が成立してしまっている。国は兵隊を必要としている。この記念会館は若者やその家族に、国のために命を捧げる準備をさせる教育の場にされてしまっている。海上自衛隊の隊員が多数見学に来ていた。お国のために死んでいった若者を賛美する石碑もあった。
 統制国家、軍事国家へと目指している勢力が、戦争中の若者の死を礼賛することによって、庶民に麻酔をかけようとしている。日本という国は、重大な局面に立たされていると思う。(2016.6.1)
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